無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 70〜H5閉じられた小屋

うえっちに会う日の13時に、わたしは、あの病院の前で、怜と待ち合わせることになっていた。病院の前で待ち合わせるというのは何だかちょっとおかしなことのような気がしたけれど、行き先と自分たちの家の位置を考えると、そう変なことでもない。

『あの小屋は今もあそこにあって、わたしたちを見守って、わたしたちの居場所となってくれているのかしら?』、何だかそんなことをそんなことを思うと、あの小屋が今どういう状態なのか、確かめたくてたまらなくなった。

怜より先に、12時半に、わたしは病院に着いた、当然ながら、怜は来ていない。わたしはあたりを見回すと、それから、右の小道に入っていった。前と変らない小道、そして林、ただ、違うのはどこもかしこも春めいていて、何だかずいぶんと明るく見えた。緑の陽光が顔をまぶしく照らしてくる。

『ここにひとりで来るのは2回目だわ』とそんなことを思っていると、小屋の前についていた。

小屋は変わらず、そこに建っていた。外からさえも、消毒液とかびの匂いがするような気がする。

『この世でただ一つの、私たちの居場所』、そんなふうに思ってみると、このみすぼらしい小屋がどんな大豪邸よりも、大切な愛しい存在に思えてくる。

わたしはしばらくの間、そのまま、小屋を眺めていた。

そうして、意を決して、小屋にひとりで入ろうとした。

錆びついた南京錠を、前のように、斜め右上に引っ張った。ところが、開かない。以前はそれで開いたはずなのに、開かない。試しに、違う方向に、ありとあらゆる方向に引っ張ってみたが、どうやっても開かない。

『どうして開かないの?どうして、わたしを入れてくれないの?』

わたしは何だか小屋に拒絶されているようで、悲しくなって、そこに立ち尽くしていた。

そうやって、どれぐらい時間が経ったのだろう。

「チチチッ」、姿は見えないが、囀る小鳥の声で我に返った。腕時計をみると、もう13時になっている。もう、行かなくちゃ、怜が待ってる。

「またね」、わたしは小屋につぶやいた。

そして、体の向きを変えて、元の小道を引き返した。

病院の入り口のところまで来ると、怜は白いワンピースを着て、静けさをまとってそこにたたずんでいた。

「怜、遅れてごめんね」

「ううん、今、来たところ。それより、大丈夫?」

「ちょっといろいろあって、でも大丈夫よ」

「そう、それなら良かった」

怜はそれ以上、聞いてこない。ただ、静かに自分の右手を差し出してくる。

「行きましょう、幸子」

怜の手を握ると、何だかひんやりとしていた、でも冷たいというのではない、何だか心地よくて、さっきの心の動揺もみるみる消えていく。

何気ない会話をしながら歩いていくと、公園についていた。そうして、あのベンチのところまでやってきた、まだうえっちはいない。

そうして、ベンチに怜とふたりで座った。