新青梅街道沿いのコンビニ前に立って、佐伯さんを待っていた。
待ち合わせ時間を5分過ぎて、佐伯さんはやっとやってきた。
遠くから手を振ってくる。しかたなく、こちらも手を振り返す。
目の悪いぼくの視界にはっきり姿が捉えられるようになってみると、これから塾に行くというような格好ではなかった。デートに行くような服装である、おまけに、学校でのふだんのリップに加えて、何だかお化粧もうっすらしているような気さえする。
「お前、何だか、勘違いしていないか」
つい、お前という言葉が出てしまう。
「ええ、第一印象が肝心ですから、ばっちり決めてきちゃいました」
佐伯さんは、くるっと一回転まわって、服のコーデを見せてくれた。コンビニに入っていく人たちがこちらを見ている。
「あのな」
「時間がないから、さあさあ、行きましょう」
勝手に、ぼくの腕に自分の腕を絡ませ、ずんずんと歩く。
「近い!」
「そうですか、喜ぶと思って。失礼しましたか?」
舌を出して、ごまかす。
「いや、そうじゃないんだけど」
「わかってますよ、上地君には理想の君がいるってことは」
今度は、ぼくの手首をつかんでどんどん進む。
「塾ってどっちでしたっけ?」
「こっちだよ、来て」
手を振り解いて、今度はぼくが先に立って進む。
しばらくすると、白いプレハブが見えてきた。
「ずいぶん、質素な建物ですね」
ぼくは、彼女の言葉に耳を貸さず、インターホンを押すと、今回は塾長の植木さんが出てきた。
中に入って、ぼくはもう必要がないが、佐伯さんと一緒に必要な説明を聞く。
『なんだか、ぼくが佐伯さんの保護者みたいだ、それとも逆か…』
「体験授業を受けてから、決めることもできますよ」
植木さんは穏やかに言う。
「いいえ、もう決めているんで」
『おいおい、決断が早すぎるだろ』と心の中で、知らず知らず、ツッコミを入れたくなってしまう。
「では、今日から、授業に出られますが、出ていきますか?」
植木さんはどっさりとテキストを、佐伯さんに渡しながら言う。
「はい!」
佐伯さんは、とてもうれしそうだ。
ぼくたちは、ひととおり、建物の中を案内されてから、応接間兼書庫みたいな右側の部屋で、授業を待っていた。
「とっても面白そう。すごくわくわくしてきた」
佐伯さんは、分厚い本をぱらぱらめくりながらつぶやく。
それは、ぼくも同じだ、今日が最初の授業なのだし、「無意識を起動して、無意識の無限の力を活用して学習を楽しく進め」というチラシの文句がどんなことなのかと思うと、心が躍る。
時間が来て、ぼくたちは植木さんと一緒に教室に行ったが、そこで僕を待っていたのは、違う種類の催眠だった。