無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 120〜H33 途中

秋津駅から電車に乗った、所沢駅西武新宿線に乗り換えて、西武新宿駅行きの電車に乗る。

『バスに乗った方が近かったかな』、そう思いつつも考えを巡らす時間ができて、これで良かったのかもしれないと思う。

こないだの塾の時から、もう頭の中は、前よりももっとうえっちのことばかりだ。でも、うえっちのことを考えると、あの女の子のことと、以前見たモデルみたいな女性のことも一緒に思い出す。消そうとしても消せない。

もう、うえっちは小5の時のうえっちではないことはわかっていた、外見や容姿や話し方が変わったということだけではない。

『あの時は、うえっちはわたしだけのもので、わたしはうえっちだけのもので』、思わず、自分のあまりに大胆な言葉に顔を赤らめて、誰か知っている人はいないか周囲を見る。誰も心の中の声を知るはずもないのに。

そうか、『あの時は…わたしはうえっちだけのもの』ということは、今はそうでないのかもしれない。今は、怜や福井君を知っているから。そう考えると複雑な気持ちになった。

電車の中の人がけっこうな数、降りていく。

あぶない、乗り過ごすところだった。久米川駅にもう着いていた。

降りて、北口の改札を出て、約束の塾に向かおうと思った。

ただ、ちょっと時間が早い。だから、駅を出たすぐのところの本屋に飛び込む。

取り立てて欲しいものがあるわけでもない。少女漫画雑誌をパラパラめくり、セブンティーンやプチセブンをちょっとばかり立ち読みして、恋愛記事にどきどきしたりした。

そして、何気なく、文庫本のコーナーを見ていると、薄青い表紙で、ヘルマン・ヘッセの「春の嵐(ゲートルート)』に目を惹かれた。

桜が舞い込んできたあの教室に帰ってしまった気がする、わたしはレジに座っているおじさんに本を渡してカバーをかけてもらい、お金を払って、お守りのようにそっとカバンの中に入れた。

そして、本屋を出て、そのまま、商店街を道なりに行く。

ショーウィンドウに、麦わら帽子をかぶって真っ白なワンピースを着た小麦色の肌の少女が映る。

『もう、9月なのに時期はずれではないかしら』、そう思ったが、まだまだ暑い。

しばらく、行くと、焼きたてのパンの香りがしてくる。

その香りに何だか心臓がドキドキしてしまう。パン屋に入って、できたばかりで湯気が出そうな熱々のチョココロネを2つ買う。

『いつの間にか、こんな時間に』

わたしはちょっと焦って急いだ。塾の前に行くと、うえっちがすでにいた。わたしを見かけると、右手をあげて、「やあ」と何だか恥ずかしそうに言った。

その右手にそのままハイタッチしたかったが、もう自分は小5ではないことに気づいて、ちょっと悲しかった。