無意識さんとともに

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聖人A 12 二重の混乱

僕たちの教会は、福音派の〇〇神学校の開拓協会として建てられた。そして、初代牧師は、現在、◯◯神学校の校長である。

だから、『しるしや不思議は使徒たちの時代に終わった』という教理から逸脱した教会の現状を許すことなどあり得なかった。

教会を出ていったと思われる人たちが戻ってきて、その中にはもちろん田中先生もいた、牧師に勧告書を突きつけた。

 

『 私たちは、父なる神と主イエスの愛と権威に基づき、以下のことを勧告する

1 今すぐ、悪魔的な間違った教えと実行を捨てて、聖書的な正しい教えに戻ること

2 そのために、この災いのもとになった者については、教会の交わりから断ち切ること

3 2度とこのようなことが起きないよう、信徒の教育を徹底すること

4 以上のことを受け入れることができないものは、牧師または信徒問わず、教会から速やかに出て行くこと

5 一度出ていったものとは、公でもプライベートでも交わりを持つことは許されない』

 

ご丁寧にも、勧告書の終わりには、初代牧師のサイン、田中先生の父親である有名な牧師のサインなど、そうそうたる顔ぶれのサインが記してあった。

これを突きつけられては、牧師はひとたまりもない。死罪宣告に近いものだった。

けれど、牧師は、たっちゃんに影響されてとてつもない熱心に駆られていたせいか、それともまだ小6のたっちゃんを守ろうという義憤なのか、この勧告書を突っぱねた。

牧師夫人は、ますます青ざめて、何とか牧師を説得しようとしたが、今までは温和そのものであった牧師はまるで人が変わってしまったかのように受け入れなかった。

そして、牧師も信徒も教会を出て行くことになった。

現在の教会の状態に反対していた人たちは半分ぐらいのはずだったが、いざ、牧師について教会を出ようとする人たちは、3分の1いるかいないかだった。

会堂をなくした僕たちは、水曜日と日曜日に公民館の一室を借りて礼拝をし、牧師一家はアパートを借りて住むことになった。

そんな大混乱の中、たっちゃんはますます大胆になり、権威を帯びたかのように見えた。

一緒に出ていった信徒たちは、牧師よりも、小学6年生であるたっちゃんのカリスマに魅せられていた。

そして、僕もたっちゃんにすっかりお株を奪われて、たっちゃんのことを嫉妬していた。

けれど、たっちゃんは僕のことを鼻にもかけない様子だった。

そうして、僕は、そんな外側の大混乱の中、内心では、洗礼式で一瞬透けて見えた流花ちゃんの裸身のことばかり考えていた。

けれど、そのことを考えれば考えるほど、あの時、たっちゃんに耳元で囁かれた言葉がまざまざと甦ってきて、心をめったざしに刺した。

僕は、とんでもない罪人だと思わざるを得なかった。