礼拝の時だった。
牧師の説教が終わると、たっちゃんは立ち上がって預言を始める。
公民館のそれほど大きくない部屋でパイプ椅子に座っている僕らをぐるっと見回す。
「神は侮られるようなお方ではありません。神はあなた方の思いをすみずみまで知っておられ、心の奥深くにある隠れた罪も全て知っておられます。
神の前には、何ひとつ隠しおおせるものはないのです。
神の光の中で露わにした罪は赦され、光となりますが、隠そうと思った罪は赦されることなく、罪として残り、終わりの日に、あなたを責め立て、あなたを裁きます。
私は、あなた方の中に、淫らな思いを抱いているものがいることを、聖霊によって知っています。
今、それが自分だと知っているものは、皆の前で手をあげ、前に出てきなさい。
神と皆の前で全て残らず告白し、罪の赦しを得なさい。清い神の民として生きる決心をするのです」
たっちゃんが僕のことを言っていることは間違いなかった。
僕は心がのこぎりで引かれているように苦しんだ。身体が震えだし、冷や汗がぽたりぽたり落ちた。
「神は、燃える火、焼き尽くす火です。清くないものは神の前に立つことはできません、清くないものは神の火で焼き尽くされ、精錬されます。勘違いしてはいけない、神の愛は砂糖のように甘いものではない、まさに焼き尽くす火こそが神の愛なのです」
気がつくと、たっちゃんは僕をまっすぐ見ている。
心なしか、皆も僕を見ている。
そうして、少し離れているところにいる流花ちゃんも僕を見ている気がする。
実のところ、僕はあの洗礼の時から流花ちゃんに恋していたように思う。いやもしかしたら、その前から。だからこそ、あの光景が自分の心から離れず、またそれほどまでに自分を責めているのかもしれない。
『僕が、ここで告白したら、流花ちゃんはどう思うだろう?永遠に嫌われ、軽蔑されるに違いない…けれど』
僕はますます震えだし、僕の異変は誰の目にも明らかなほどになった。
「優、大丈夫?」
隣にいた母が心配そうに僕の顔を覗き込む。
「憐れむべき罪人よ、今が最後のチャンスなのです。ソドムとゴモラがどうなったのか、思い起こしなさい。主に向かって一心に走らず、後ろを振り返ったものは塩の柱になったのです」
僕は、もうたまらず、手をあげた。
たっちゃんは手招きし、僕を呼び寄せた。
「ここで、皆の前で、自分の犯した罪を残らず告白しなさい。そうすれば、あなたの罪は赦されるでしょう」
「洗礼の時、僕は立花さんを見て…」
「曖昧な言葉ではなく、はっきり言いなさい」
「流花ちゃんの透けた裸を見て、心の中で情欲を抱き、汚してしまいました」
「汚してしまったとは、具体的に言いなさい」
「許してください、許してください」
僕は泣き出した。
「言いなさい、罪が赦されるために」
「裸を何度も思い出し…自慰のために使いました」
僕はぐしゃぐしゃになり、泣き崩れた。
「それでいい、それでいい。皆さん、彼のために、彼の罪のために祈りましょう、彼の罪が赦されるために」
皆が祈った。僕は霞んだ目で見上げると、たっちゃんは満足そうな顔で冷たく微笑んでいた。