無意識さんとともに

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聖人A 14 転落

僕は、皆の前で罪を告白した。

『勇気ある立派な行いだよ』とか『主があなたを赦してくださったのだから、あなたを責めることができるものは誰もいないよ』とか言ってくれたが、

それから、皆が僕を見る目は明らかに変わった。

それまで、僕は、牧師・伝道者志望の教会の期待の星だったが、今やぼろ雑巾のように見られるようになった。

まず、牧師は妙によそよそしくなった。それから、他の信徒や教会学校の仲間でさえも、僕を軽く無視するようになった。

母は明らかに僕に絶望したようだった。変わらないのは、妹の真理ちゃんぐらいのものだった。

聖霊に満たされているものは罪を犯さない、特に性欲はなくなる』というのが、暗黙の教えだったから、僕は、つまり、聖霊の満たされていないもの=牧師・伝道者にふさわしくない薄汚いやつということになる。

そして、なぜか、教会での僕の告白の内容が、学校でも広まっていた。

誰が広めたかはわからない。そして、学校の子は容赦がなかったから、僕はとても言えないようなひどいあだ名で呼ばれるようになった。

それまで、優等生だったから、ここぞとばかり、今まで僕に注意されてきた生徒は僕に復讐してきたのかもしれない。

僕は、教会にも学校にも居場所がなくなった。

それでも、教会に行き続けた。僕はどこかで時間を見つけて、流花ちゃんに謝りたかった。

謝ってどうにかなるものではないかもしれないが、それでも謝りたかった。

教会学校の小6のクラスで、もちろん、流花ちゃんと顔を合わせる。

僕は逃げたくなってしまったが、必死でこらえた。時間を見つけて話しかけようと思うけれども、僕は要注意人物として、がっちりガードされていて流花ちゃんに話しかけることなんてできない。

ところが、ある日、思ってもないチャンスが巡ってきた。

母は婦人会に出るので、ひとりで帰るように言われた。

僕は、教会で使っている公民館から家までの道をとぼとぼ歩いていたが、途中、公園があった。

何気なく見ると、なんと、流花ちゃんがひとりでベンチに座って、本を読んでいた。

流花ちゃんの家は、近くの都営住宅だと聞いていたから、この公園にいてもおかしいことではなかった。

流花ちゃんは、髪をポニーテールにして、白いシャツに水色のカーディガンを羽織り、赤いスカートをはいていた。

『このチャンスを逃すわけにはいかない』

けれど、僕はかたまって、全身の毛穴から汗が噴き出るような感じがした。

かといって、逃げることも立ち去ることもできす、そこに立ち尽くしていた。

すると、流花ちゃんは、本を閉じて茶色のバッグに入れ、立ち上がった。

その瞬間、偶然にも、僕と目が合ってしまった。

すっと近寄ってきて、言った。

「優君?」

僕は、返事をすることもできずに、ただ流花ちゃんを見つめるだけだった。