無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 50 大切なこと

「特別に祈ってほしいって、どんなこと?」

「内容は話せないんですけど、特に大切なことなので、頭に手を置いて祈ってくれますか?」

『内容は話せない』という言葉に何だかがっかりした次の瞬間、『頭に手を』という言葉にドキッとする。

「頭に手を?」

「そうです、特別なことなので、頭に手を置いて祈ってほしいんです」

「そうか、わかったよ」

そう言いながらも、躊躇っていた。

「お願いします」

藤堂さんは、私の方を見上げ、促すようにそう言う。

私は、前から藤堂さんの頭に手を置いた。髪に触れているのだが、じんわりと体温が伝わってくる。何だか、心があらぬ方向に持っていかれそうだ。

そんな思いを振り切って、祈り始めた。

「全能の愛であるお父様、私には藤堂さんがどんなことを願っているかわかりませんが、あなたは全て知っておいでになります。

どうか、藤堂さんの願いを、あなたの全能の愛によってかなえてください。

イエス・キリストのお名前によって、アーメン」

それほど長い祈りではないのに、私は額に汗をかいていた。

「ありがとうございます、これで神様は私の願いを聞き入れてくださったと思います」

藤堂さんはじっと私を見つめながら、そう言った。

瞳が濡れているように見えた。

私はコホンと咳をして、つまっている感じがしてならない喉の通りをよくしてから言った。

「そうだといいけどね」

「ひとつ、提案があります」

「何?」

「今まで、神崎さんと私で、ふたりきりでカラオケで礼拝していることは…光ちゃんに言っていないんですよね?」

「うん、私は言っていないよ」

「私も言っていません」

「でも、もう」

そう言いながら、藤堂さんはためいきをついた。

「隠しておくことはできないと思うんです」

『隠しておく?』、そんなふうに考えたことはなかった。

「そうだね」

「ですから、神崎さんから光ちゃんに言ってくれますか?」

「そうだね、話すとしたら、私から言うべきだよね」

その後、藤堂さんは手作りのクッキーを持ってきて、さらに白磁のポットでミルクティーを入れてくれた。

私たちは、紅茶の香気に包まれながら、楽しく会話をした。

「こんな時間が永遠に続いたらいいのに」

藤堂さんは、窓の方に視線を移しながら、そう言う。

私も彼女の視線を追いかけると、さっきはそんなに見えなかったのに、空には満天の星があった。

「ほんとにね」

私も彼女の呼吸に合わせるように、何気なく、そんな言葉を口にする。

別れ際、藤堂さんは、ドアから体の半分を乗り出し、手を振りながら、「さようなら」と言った。

「じゃあ、またね」

私はそう言ったが、何だか、藤堂さんの顔が悲しくてたまらない、そんな表情に見えてならなかった。