僕は、3時50分に、あの40代の女性と校舎棟で待ち合わせた。
もうそこには、10人ぐらいの人たちがいたが、どう見ても学生には見えなかった。この集いに来た人たちなのだろう。
山田さんはその人たちの群れの中にいて、僕を見かけると、にっこり微笑んだ。
「では、404号室に行きましょう」
僕は図書館で借りた本の詰まったショルダーバッグの重みを肩に感じながら、彼らと一緒にエレベーターで4階に上った。
404号室は、僕の通っている大学の教室と同じぐらい、簡素な、これと言って特徴らしきものはない部屋だった。
ただ、机がすべて片付けられていて、椅子が三重の円陣になるように配置されている。
そして、一番真ん中の円陣はもう席が埋まっていて、年配の外国人が数人座っていた。おそらく、神父なのだろう、スータンではなく普段着なのではっきりわからないが。
山田さんは僕を神父たちのところにまっすぐ連れて行った。
「お連れしました」
まるで、社長秘書のような話しぶりだ。
数人の外国人神父のうちのひとり、白髪の神父が立ち上がって、僕に手を差し伸べる。
「お会いできてうれしいです、アイザックと言います」
その恭しい態度に僕は怖気付きながらも、神父の大きな手を握った。
「山田さんからお話は聞いています」
一体、どんなことを聞いているのだろうかと訝しく思った。
中心の輪のところに座るように言われたが、失礼にならないように断って、いちばん目立たない外側の輪の出口に近いところに座った。
しばらくすると、集会が始まった。
最初に、歌を歌う。プロテスタントのカリスマ派や聖霊派が歌うものと同じだが、かなり昔のものだ。さすがに、アコースティックギターの伴奏だけで、エレキやドラムの演奏はない。
歌を歌い、あるところに来ると、皆が一斉に異言(キリスト教で聖霊を受けたしるしだと言われる言葉。通常の言葉とは違う外国語や天使の言葉とされる)になる、霊歌(異言で聖霊に与えられた曲調で即興に歌うこと)で歌い出す人もいる。
トロントの集会に比べると、ちょっと拍子抜けするぐらいに大人しいものだ。僕も一応、そこにいるみんなに合わせて異言を語り、霊歌も歌った。
数曲歌ったところで、今度は預言が始まった。
「主は言われる、『私はあなた方のうちに新しい命を吹き込む』と」
「主は言われる、『あなた方が目覚めるその時は満ちた』と」
これもまた、何だかお決まりの預言だ。
ところが…
「主は言われる、『私は、今日、あなた方の中に、私のハートと私の手を持つ預言者を送る。今日、初めて来た青年がそれだ』」
皆の目がいっせいに僕に注がれた。