そうやって、地元の教会とそこのこじんまりした聖霊刷新のグループに通うようになると、人に注目され追っかけられることは少なくなった。
僕は、ますます、Kさんと仲良くなった。
そうして、ある日曜日、グループの帰り際に、Kさんが僕に言った。
「佐藤君も二十歳になったのだから、お祝いをしなくなちゃね」
「お祝いって?」
「もう、二十歳なんだからお酒も飲めるでしょ?」
「ええ、まあ」
僕は、プロテスタントで育ったからお酒は御法度で罪だった。カトリックでは、神父も信徒も当然のようにお酒を飲むし、そのこと自体を罪だという人はいない。
実際のところ、あの時以来、お酒を一滴も飲んではいない。
「じゃあ、まずカラオケね」
僕のこれまで知ってきたKさんとは違う人のような気がした。けれども、これだけお世話になっているのだから、今更、何かを言うことはできない。
教会から少し離れたところにあるカラオケに、ふたりきりで入った。
僕はふたりきりで入ることに少し良心の咎めを感じたが、Kさんにはそんな様子は全くない。
さすがに、音大を出て教会でオルガンを弾いている人だけあって、歌がうまかった。僕はKさんの前で歌を歌うことに戸惑った。
「ほらほら、佐藤君も歌って」
「僕はKさんのようにうまくは歌えません」
「いいのよ、あなたのお祝いなんだから。歌を歌って、自分を見せて」
仕方なく、僕は2曲歌った、と言ってもその2曲しか歌える歌はなかったのだけれど。
Kさんは、上機嫌で、結局、3時間歌い続けた。
「さあ、今度は、いよいよ、お酒を飲みに行くわよ」
外に出ると、もう日が暮れて暗くなっていた。
「大丈夫ですか、もう暗いですけど」
「何を言っているの、もう大人なんだから、ここから本番よ」
僕たちは、僕の持つ居酒屋というイメージからかけ離れた個室のある洋風居酒屋に行った。
Kさんは何度も来ているのか、慣れた感じで、チーズの盛り合わせとボトルワインを注文する。
そして、グラスに赤ワインをなみなみと注ぐ。
「乾杯、佐藤君が二十歳になったことに。乾杯、私たちふたりに」
『私たちふたりに』って一体どういうことだろう?
けれど、僕は深く考えないことにした。僕は、清楚なKさんに惹かれていた。そして、できれば、Kさんとお付き合いして…と思っていたのかもしれない、たとえ、僕が年下であっても。
でも、目の前にいるKさんは、僕の知るKさんの百倍、饒舌だった。
『けれど、まあ、そんなこともあるのかもしれない』
僕はすべてを自分のいいように考えていたのだと思う。