「赤い服を着ている女の子が見えます」
「その子はどんなことをしていますか?」
「テーブルの陰に隠れて震えて泣いています」
「今、周りからどんな音が聞こえますか?」
「男の人と女の人の怒鳴り合う声が聞こえます」
「その子は今、体のどこにどんな感じを感じていますか?」
「お腹がちぎれるぐらいに痛いと感じています」
「近寄って声をかけることはできますか?」
「はい」
「声をかけたらまた教えてください」
しばらくしてはまっちの唇が動いた。
「声をかけました」
「どんな反応をしていましたか?」
「なんだかつらそうで、言葉も途切れ途切れです」
「どうしたのと聞いてみてくれますか?」
「はい」
…
「パパとママがけんかしている、幸子はいらない子なんだってと言っています」
「その子に言ってあげたいこと、してあげたいことはありますか?」
「抱きしめて、大丈夫だよと言ってあげたいです」
「そうしてあげてください」
…
いつの間にか、はまっちも泣き出した、小さな子のように声をあげて。
僕ははまっちが泣き止むまで静かに待っていった。
「そうしてあげました。お姉ちゃんは幸子を見捨てないでずっと一緒にいてくれると聞いてきました。私は、いつもずっと一緒だよと言ってあげました」
「他に言ってあげたいこと、してあげたいことはありますか?」
「腕に抱いて、頭を撫でてあげて、子守唄を歌って眠らせてあげたいです」
「そうしてあげてください」
…
「眠りました、息をスースー立てて眠っています。泣き止んで少し笑みも浮かんでいます」
「最後に言ってあげたいことはありますか?」
「幸子、あなたは本当によくやっていると言ってあげたいです」
「では、その言葉を言ってお別れをして、それから戻ってきてください」
…
「眠っている女の子の耳元で『幸子、本当によくやっている。私はあなたが大好きよ』と言ってあげました。別れるのが名残惜しくて…でもお別れをしてきました」
「では、覚醒した状態に戻ってきます。催眠の中で経験したことは忘れてしまうかもしれません。でも、全ては無意識さんが働いてくれるから、ただ任せて楽しんでいればよいのです。
ひとーつ、心と体に爽やかな風が流れ込んできます。
ふたーつ、心と体がだんだん軽ーくなってきます。
みっつ、1回か2回か3回か、自分で決めた回数をして頭はすっきりと目を覚まします」
はまっちは、目を覚ました。
「どうだった?」
「なんだか、何も覚えていない」
「そう、それはよかったかも」
「ただ、ひたすら眠い。ちょっと眠らせてもらうね」
はまっちは、ふらふらと隣の部屋に出て行った。