(これはフィクションです。登場人物など現実のものとは関わりがありません。)
私は泣きながらも、祈り始めた。
「イエス様、光さんは小さな頃、クオヴァディスの漫画でクリスチャンが吊るされるシーンを見て、この世界は恐ろしいところだと心に傷を受けました。
本当に、あなたもそう思っておられるのですか?
この世界は恐ろしいところなのですか?
ヨハネ3:16に『神はひとり子を賜ったほどに世を愛された』とあります。
あなたはこの世界を憎まれているのですか、それとも愛されているのですか?』」
私は沈黙した。
腹の奥底からずしんと声がしたような気がした。
「私はこの世界を愛している」と。
「あなたは、この世界を愛しているのですね。
それなら、そうであるなら、あなたの愛を私たちに注いでください。
『完全な愛はおそれを消す』とあるように、あなたの完全な愛によって私たちのおそれを消してください」
電話越しの光は、いよいよ、声をあげて泣いている。
「私には、2つのゆりかごが見えます。
大きなもみの木の下に2つのゆりかご、ひとつのゆりかごには、ピンクの産着を着た女の子が、もうひとつのゆりかごには、青い産着を着た男の子がいます。
二人の子は、それぞれ声をあげて泣いています。
彼らを慰めるものは誰もいないようです。
けれど、ひと時過ぎた後に、長い髪の白い衣を着た人がやって来て、ふたつのゆりかごを軽く揺らします。
そうして、泣いている子たちの瞼にそっと手を触れます。
左手を女の子の瞼に、右手を男の子の瞼に。
そうすると、鳴き声はたちまち止んで、きらきらするような笑みが顔にこぼれます。
『もう泣かなくていい、苦しんだ涙の記憶さえも、これから後は甘い蜜に変わるだろう。あなたがた二人は、涙の福音ではなく、喜びの福音の種を蒔くものになるのだ。
あなたはこれを受け入れるか?』」
「はい、受け入れます」
私は答えた。
「光さん、あなたも受け入れますか?」
「受け入れます」
彼女は、何のためらいもなく、答えた。
「あなたがたは二人でひとりとなって、私のことを伝えるものになる。見よ、世の終わりまで私はあなたと共にいる」
その後、光も祈り出した。
けれど、それは打って変わって随分と違う感じだった。
「地は揺れに揺れ、荒れ果てている。
太陽は大きく膨らんで真っ赤で、熱い灼熱で空気が揺らいでいる。
人々は欲望に駆り立てられ、それが満たされないので、神に向かって呪いの言葉を吐いている。
ひとりの天使がラッパと剣を手に握り、天から降りてきて、空中にとどまる。
『見よ、裁きは近い。あなたがたは行って、福音を宣べ伝えよ。
けれど、人々は受け入れることなく、あなた方を迫害するだろう』
それでも、私は片割れと共に立ち上がり、出ていった。
福音を伝えたが、受け入れるものはいない。
人々は耳を塞ぎ、歯軋りして罵る、『私たちの苦しみを見よ、神はいない証だ』と。
それでも、私たちは伝える、人を救うために、裁くために。
そのために、私たちは神に力を与えられたのだから」
まるで、黙示録の世界だった。
私たちは、最初から対照的な存在だったのかもしれない。
それなのに、その食い違いを感じずに、いや感じても見ようとはせずにいたのかもしれない。
私と光は、その電話の後から付き合うことになった。