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そのうち、私たちの蛮行は度を超えたものとなった。もっとも、度を超えたのは、Sと私だけだったが。
「このあいだ、家に○○教の人が訪ねて来た。それで、暇だったので相手をしたが、最後に『集会に来ませんか』と言われた時に、長い沈黙の後に、『実は…私が…神なんです』と迫眞の演技をしたら、青くなって逃げて行ったよ。」
「この前は、駅で△△教の外国人の青年にわざと捕まって、こちらから『ここで話すのもなんだから、家に連れて行って下さいよ』と行って、部屋に行って、5時間専門用語でまくしたて、途中で喉が渇いたから冷蔵庫の飲み物を勝手にいただいて、なおも議論していたら、そのうち相手が時計をチラチラ見るんだよね。それでも無視して、話し続けていたら、最後は『お願いですから帰ってください、帰ってください』と言われて、『また、来ます』と言って帰ってきたよ。」
Sは面白くてたまらないように話す。
私もSと一緒に試してみることにした。
帰り道の高田馬場のビッグボックス付近には、□□教の人たちがずらっと並んで伝道していた。
「今、幸せですか?」
ここで『幸せです』と答えてしまうと終わってしまうので、顔をしかめて答える。
「そうですね、幸せとは言えないですね。」
そんなことを言っていると、本当に不幸な気がしてくるから不思議だ。
そんなこんなで、向こうの話を引き出したところで、Sの言っていた『狂気にはそれを上回る狂気を』という言葉を思い出し、唐突に私の方が祈り出す。
「天のお父様、どうか、教祖のBと目の前にいるこの人をお救いください…アーメン。」
相手は顔を真っ赤にして怒り出す。さらには、教祖の名前を呼び捨てにしたので、『口が腫れてくるぞ』などと言う。
「腫れてきたら、見せに来ましょうか?」
『キマッタナ』とSに目配せして立ち去る。
そんなことを繰り返していたので、そのうち、自分の姿を見ると、彼らはツツーと反対側に、私が右側を歩くと左側に、左側を歩くと右側に移動するようになった。それもとても痛快に感じていた。
今、考えると、まさにマウンティング、破壊欲動の塊であって、穴があったら入りたい気持ちである。
そして、破壊欲動はそんなところにだけ現れていたのではなかった。