ディズニーランドに着いて、まずしたかったのがシンデレラ城の前で写真を撮ることだった。何よりもうえっちと一緒の写真を撮りたかった。
うえっちは何だかごついカメラを持ってきていた。
手つきが慣れずたどたどしい、それが何だか可愛らしい。
『ああ、自分ってうえっちのこんなところも好きだったんだなあ』
そんなふうに思ってみたりもする。
ちょっとからかってみると、うえっちは顔を真っ赤にして辺りをきょろきょろ見回している。何だか、胸がキュンと締め付けられて、ますます可愛らしく思える。
でも、男の子なんだから、そんなこと思ったら失礼かな。
あのゴンドラの中のことも思い出してしまった。うえっちはずっとずっとわたしの心の中に住んでいる、これからもずっと…そうだ。
人に頼んで、うえっちと一緒の写真を撮ってもらった。
うえっちはぎこちない。わたしは思い切り距離を詰めて、うえっちの手を握り、そして、シャッターが押されるその瞬間に、頬にキスした。
これぐらいしてもいいよね。
近くにいた外国人の男性が、わたしたちを見て口笛を吹いた。
それが何だかうれしかった。うえっちは気づいたのかな。
それから、わたしたちは、まず、プーさんのハニーハントに乗りに行った。
そんなに混んではいなかった。
「そんなに混んでいなくてよかったね」
うえっちは何だかまだぼうっとしているようだった。わたしが魔法にかけてしまったのかな。
「子供連れやカップルばかりだね」
「えっ、そうだね」
「わたしたちもカップルに見られているんだろうね」
「うん」
うえっちはちょっと小さな声で言う。
程なくして、番が回ってくる。
「気をつけてお下がりください」
キャストの人が言う。
これも可愛らしいカートに、ふたりして乗り込む。
「行ってらっしゃいませ」
カートの中はそんなに広くない、自然、わたしはうえっちと体をくっ付けることになる。なんだか、自分の心臓の鼓動だけでなく、うえっちの心臓の鼓動まで聞こえる気がする。
蜂蜜の香りが漂ってくる。
「この蜂蜜の香りって本物なのかな?」
「どうだろうね、本物だったら面白いけど」
「蜂蜜の香りって単純にいい香りって言うんじゃなくて、何だか頭がジンジンする香りだね」
「そうかもしれないね、花から取られているのに、花の匂いとはまた違うね」
どうでもいい会話、けれどどうでもいい会話がとてもとても貴重なものに思えてくる。
プーさんは青い風船を握って森の中を飛びながら進んでいく。
そうやっていつか森を抜けるのだろう。
わたしたちも無意識の風船を手にして、心の森の中を飛んでいる最中なのかもしれない、出口を目指して。