無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 176 約束の日

そうして、授業が5限まででバイトもないある日、僕はすっかり忘れていたが、釘山さんは僕の机のところに来て、腕をつねった。

「忘れてるでしょ、約束」

周りの女子は、一斉に僕の方を振り向いて、何だかとてもバツが悪かった。

忘れていたわけではない、いや、はっきりと覚えていた。けれど、こうもはっきりした悩みを持っている釘山さんに催眠をするのは、今までとは何だか違う気がして、あえて寝た子を起こさないようにしてきただけだ。

「忘れてはいないよ」

これで嘘にはならない。

「今日、バイトあるの?」

「いや、ないけど」

「じゃあ、お願い」

また、教室内の女子がこちらの話をじっと聞いているような気がする。彼女らの耳がロバの耳になって、耳がピクピク動いているような、そんな気がしてしまう。

「わかったよ」

「じゃあ、帰りに速攻でね」

僕たちは、授業が終わると、速攻で帰った。しかし、釘山さんはテニス部の部活をこの頃、全然していないようだけど、大丈夫なんだろうか?

正門を出て、左に道なりに歩く。畑には緑が生い茂っている。『これって小麦なんだろうか』一面の緑を吹き渡る風が顔にこの上なく心地よい。

「黙ってるけど、緊張してるの?」

釘山さんはペシャンコの革カバンを手で揺らしながら言う。

「全然、そんなことないよ」

反して僕の革カバンは、本やら辞書やらではち切れて破れそうにパンパンだ。何でも持ち歩かなければならない性分なのだ。

ある程度歩いたところで、駅とは反対側に、右に曲がって、住宅街の中を歩く。そうして、しばらくするとお目当ての公園が見えてきてしまった。

公園には、どうしてかわからないが、誰もいない。

僕たちは、公園の中央にある、屋根が蔦で覆われた東屋のベンチに腰掛けた。

あまり近すぎもせず、遠すぎもせず、僕たちの心の距離のままに。

「まず、呼吸合わせというものを一緒にやってくれる?」

「呼吸合わせ?何、それ?」

今日はロングをポニーテールにしている釘山さんが、ポニーテールを揺らしながら言う。何だか夏服がまぶしい。

僕は、簡単に呼吸合わせを説明した。

そうして、相互に呼吸合わせをする。相手の呼吸に合わせて、息を吸ったところで肩を後ろに、息を吐いたところで肩を前に揺らす。

人がいなくてよかった。無限塾でずっとやってきたことだけど、人に見られたら、いかにもアヤシイ。

5分間ぐらい呼吸合わせをしてから、僕はおもむろに言った。

「もう一度、悩みを聞かせてくれるかな?」

「いいわよ、あのね」