お品書きと書いてある紙を見て驚く。
前菜3種:サーモンのカルパッチョ、ポークパテ、キャロットラペ
スープ:コーンポタージュ
パン:ライ麦パン
メイン:鶏のコンフィ
飲み物:ミルクティー
デザート:柚子のシャーベット
「これって、フレンチのコース⁉︎」
「それほどじゃないんだけどね、がんばっちゃった」
よく見ると、はまっちの目の下にくまがあるような。
「僕のために?」
「そう、うえっちのために」
僕は思わず、抱きつきたい衝動を覚えたが、抑えた。
「こんなの、食べるの、生まれて初めてだよ」
「あまり期待されると困るけどね、まだまだ修行中の身だから」
はまっちは、ローテーブルにフォークとナイフを置いて、またキッチンに戻って行った。
そうして、白い皿を2枚抱えて来て、テーブルの上に置く。
白い皿の上に、緑色のソースのかかったピンク色のサーモン、薄茶色のポークパテ、オレンジ色のキュロットラペが並ぶ。
「うえっち、17歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう」
はまっちと僕は、炭酸水の入ったグラスをつき合わせて、乾杯をする。
「さあ、食べて、食べて」
僕はサーモンから食べた。バジルのソースが鼻に抜ける。
「バジルのソースを使っているんだね」
「そう、うえっちが緑色が好きなのを思い出して」
そんなこと言ったことがあっただろうか?はまっちが僕のことを色々知ってくれているのが何だかうれしい。
他の2つにも手をつけた。パテは口の中でほろりと溶け、ラペはちょうどいい酸っぱさ。
「ラペ、そんなに酸っぱくないよ。ちょうどいいよ」
「酸っぱいの苦手でしょ」
「そんなこと言ったことあったっけ?」
「小学校の給食の時、酢の物が出て『酸っぱい、酸っぱい』と大騒ぎだったじゃない?」
「ああ、そうか」
付き合いが長いから、いろいろなところが見られているんだ。
そうして、次にはスープを持ってきた。
コーンの甘味が口いっぱいに広がる。
「このスープ、本当に甘くて美味しいよ」
僕は、コーンスープと言えば、粉末のカップスープしか飲んだことがない。それとは大違いの味。
「これは結構、大変だったのよ」
そうして、ライ麦パンが温められて出てきた。普通のパンよりライ麦パンが好きだ。そんな好みも、はまっちは知っているのだろうか?
「いよいよ、メインの登場。ちょっと待っててね」
そう言って、はまっちはまたキッチンに引っ込んだ。
持って来たのは、香草が添えられている鶏のコンフィ。ナイフで切ろうとすると、皮がパリパリ音を立てる。口に入れると、中はしっとり柔らかい。
何だか、心も体も満たされていく。
「まだまだ、終わらないわ」
最後に、口直しに柚子のシャーベットとミルクティー。
僕たちは、ゆっくりと、一口ずつシャーベットを口に運びながら、話に夢中になる。
「教室に桜の花びらが舞い込んで、うえっちの肩と私の髪についたことがあったじゃない?」
「うん、覚えているよ」
「あれ、まだ取ってあるのよ」
はまっちは立ち上がってそれから1枚の本の栞を持ってきた。
栞には桜の花びらが押し花にしてあり、その下にロイヤルブルーのインクで男の子と女の子の絵が描いてある。男の子は女の子の髪に、女の子は男の子の肩に手を伸ばしている。
「これ、僕たち?」
「そうね」
「僕も、あの桜の花びら取ってあるんだ」
「今度、見せてほしいわ」
こんなふうに、僕の17歳の蜂蜜色の誕生日は過ぎて行った。