駅の改札口を出て歩く。
延々と続く畑、そして豚小屋の匂い、何も変わることがなかった。
そして、もうすぐ、道を曲がったところに古い一軒家があるはずだ。
そう思って、道を曲がると、そこには何もなかった。
ただの更地になっていた。
更地には、枯れかかった黄色い雑草が生えているだけだった。
僕は、亡霊のようにそこに立ち尽くした。
『神の呪い』という言葉がガクンと腹の底まで降りてきたような気がした。
「神は与え、神はとりたもう。神の名はほむべきかな」、そんなヨブの声が頭の中に響き渡る。
僕は、唯一、今の生き地獄の中から出る手がかりを失ってしまった。
僕の憧れであり、先駆けであるたっちゃんは、もうどこにもいない。
これ以上、どうやって生きればいいのだろうか?
もう、十分ではないだろうか?
孤独が霜柱のように心を侵食する。
「主よ、もう十分です。僕の命をお取りください」
僕は心の中でつぶやいた。
その瞬間、神は僕の祈りに答えたのかどうか、天使が目の前に現れた。
天使の顔は、僕がよく見知った人のように見えて、僕は「やあ」と手を上げた。
『これで僕は孤独から救われる』
そんなことを考えた。
陽はもう暮れかかっていて辺りは薄暗かった。どこからか、芳しい薔薇の香りがする。
『この匂いはどこからだろう?』
そう思って天使を見つめると、僕はそのわけが分かった。
天使は、左手に薔薇、右手に煌めく何かを手にしていた。
天使は微笑んでいたが、僕が見つめている間に、急に厳しい顔つきになって、足早に、そしてついには全力で飛ぶように駆け出して近づいてきた。
「○○○○」
その言葉は『嘘つき』とも『死のさばき』とも『祝福』とも聞こえた。
僕は両腕を広げて、天使を腕に迎え入れようとした。
天使は煌めくものを振り上げ、そっと、しかし、力強く僕の腹に押し込んだ。
赤い薔薇の花びらが当たり一面に舞い上がった。
『救われた』
僕は、そんなふうに思ったのも束の間、何も見えず何も聞こえず何も意識できない闇へと堕ちていった。
…
計器の信号音、人の声、金属が触れ合う音。
まぶしすぎる光。
上から僕を覗く薄青の服で覆われた人たち。
そんな光景が頭の中に炸裂した後で、また頭はブラックアウトした。
…
今度は、目を覚ますと、白い天井が見えた。
右手には誰かの手が重ねられている。
体は痺れたように動かなくて、それが誰なのかわからない。
「優君、目を覚ましたのね。もう何日も目を覚まさなかったのよ」
「あなたは誰?」
僕は息がスースー漏れるような声で言った。
「私よ」
「私って?」
「あなたがよく知っている私」