けれど、藤堂さんと私は、二人きりの礼拝で毎週、顔を合わせ、その後は一緒に食事をしてお互いのことを包み隠さず話し、そんなことをするたびに、親しくなっていった。
藤堂さんは、いつものあのファミレスの、窓際のあの席で、食後の紅茶を入れた白いカップを持ち上げて一口飲んでから、視線は窓の外のカップルに向かいながら、つぶやくように言う。
「神崎さん、私たち、親友ですよね?」
その言葉は私をどきりとさせた。
けれども、ほとんど誰にも言っていない自分のことを知っている、この人をその言葉以外の何という言葉で言えばいいのだろうか。
「そうだね、親友だね」
言ってしまって、私はフーッと息を吐く。
越えてはいけない境界線を越えてしまったような気がして、微かに胸が痛む。
私は思わず、視線を下に落とす。
「光ちゃんのことを考えているんですか?」
この胸の微かな痛みはそういうことなんだろうか?
光のことを考えて、後ろめたい気持ちになっているということなんだろうか?
「わからないよ」
私は顔をあげて、曖昧に笑う。
「大丈夫ですよ、私たち、恋人じゃなくて親友なんですから」
藤堂さんが、『恋人』という言葉を持ち出したことに驚いて、思わずまっすぐ、藤堂さんの瞳を見つめてしまった。
「そう、親友なんだよね」
「そうです」
そう思ってみたものの、何だか、胸の中に澱のようなものがあって、広がっていくようなそんな気がしてならなかった。
冬が近づいた寒い日、地下の駅へと降りるエスカレーターに、私は先に、藤堂さんは後に乗っていった。
「今日は、本当に寒いですね」
藤堂さんは、私の後でそう言う。
その言葉に答えようとした瞬間、私は空いている右手に何だか温かいものを感じた。
振り返ってみると、藤堂さんが私の手を握っているのだった。
また、こんなこともあった。
お正月間近で、カラオケがいっぱいで空室がなく、私たちは夕闇の中、どうしようかと、カラオケの入っているビルの前で立ち尽くしていた。
その日は藤堂さんが用事があって、カラオケ礼拝が午後6時になったと言うのも間が悪かった。
「今日は、やめておこうか?」
おそらく、他のカラオケもいっぱいだろう。今日はやめておく、それが一番、無難な選択かもしれない。
「それは…困ります」
「どうして?」
「どうしても神崎さんに祈ってほしいことがあるんです」
「そうか、じゃあ、公園ででも祈ろうか?」
「凍えちゃいますよ」
「じゃあ、どうしたら?」
「私の家に来ませんか?」
私はひどく戸惑った。けれど、それでも行くことにした。