無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 56 隔ての壁

光の祈りは続く。

「あなたは私たちを選び、あなたの戦士として、あなたの福音を告げるものとしてくださいました。
それは、あらかじめ救われることが予定されたものには喜びの福音を告げ知らせ、そうでないものには滅びの福音を告げ知らせるためです。

そうして、私たちは全地にあなたの福音を伝え終わると、あなたは天から降ってきて、この世界は巻物が巻き取られるようにして一瞬にして消え去り、救われたものの苦しみが終わり、あなたは私たち、あなたの戦士たちに報酬を与えてくださいます…」

もはや、祈りというより、預言というものだろう。

けれど、私の預言とは正反対の預言、全ての人を救い、悪魔さえ最終的に救う全能の愛とは、全く逆の、全てを裁き、救いに予定したものは救い報酬を与え、裁きに予定したものは裁き滅びを与える、恐るべき裁判官の神の言葉。

「…私たちを選ばれたものとして救い出してくださったイエス・キリスト尊いお名前によって、お祈りします。アーメン」

私もアーメンと言おうとしたが、どうしても唇が動かない。

何とか言おうとして、酸素不足の金魚のように、パクパクと口を無意味に動かしただけだ。

ふと、藤堂さんを見ると、藤堂さんの唇は固く閉じられている。

唇だけではなく、瞼も固く閉じられている。

光はそんな私たちの様子には気がつかないのか、ソファに勢いよく腰を下ろした。

何だか、息が苦しい。
部屋の中で、2つのものがせめぎ合っているようだ。


とうとう、私が話をする番がやってきてしまった。

どうしたらいいのだろう。無難な話はないかと、必死で頭の中をサーチするが、そんなものは何をどうやったとて、全く出てこない。
「神様は、全能の愛のお方です」

そう言ってしまうと、いつものように、言葉が自動的に数珠繋ぎのように、次から次から出てくる。
そうなると、私は私で、自分の言葉を止められず、私の内側に働いているものに身を任せるしかない。
「神様は、善人と悪人、罪人と義人、信じるものと信じないものを差別するようなお方ではありません。
全ての人に太陽を昇らせ、雨を降らせてくださるお方なのです。

そうして、全ての人の隔ての壁を壊して、全ての人を兄弟姉妹にしてくださるのです…」

隣で、光がソファを乱暴に揺らしている音が聞こえた。

「もちろん、そんなことは信じられないと多くの人は言うでしょう。
エスの時代のユダヤ人もそうでした。
それは聞くに耐えないことであったのかもしれません。

だから、イエスは熱心な宗教家たちによって十字架につけられたのです。」

光の立ち上がる音が聞こえた。
「いい加減にしてよ!」