相変わらず、瞑想は続けていたが、特に何かが変わることのないそんなある日、私は、日曜日の朝、アパートの近くを歩いていた。
なぜか、その日に限って、少し、散歩でもしようかと思ったのだ。
私は、大学附属の中高のある校舎の方に向かって、歩いていた。
いつもは、中高校生で道路がいっぱいになるが、流石に日曜の朝で、特に一部の朝練に参加する学生以外はいない。
静かな住宅街の道を歩いていくと、何だか、道が水が流れる川のような、そんな気がしてくる。
そう、自分は時間の流れという川の中を生きているのかもしれない。
そうして、駅へと反対の方向に歩いている自分は、時間の流れを遡っているような感じがしてくる。
時間の透明な流れが、私の体にも心にもぶつかって、小さな白波が起こっているのを感じながら…
そんな感覚に浸っていると、どこかで見たことのある顔が目に飛び込んできて、私は思わず現実にかえった。
「光…」
思わず、声を出してしまった。
雰囲気は変わっているが、光に間違いない。
何だか、懐かしさでいっぱいになる。
光は、私の声に気づかないのかどうか、全く反応しない。
トートバッグを肩にかけて、これから教会にいくところなのだろう。
思えば、すぐ近くに住んでいるのだから、今まで出くわさない方が不思議だったのかもしれない。
もう一度、「光」と呼びたくなったが、最後のあの時の表情を思えばそんなことはできない。
それでも、さらにだんだんと距離が縮まってくる。
どうしたらいいんだろうか?どうしたら?
すれ違いざまに、彼女は、顔をあげて、不思議そうな表情をした。
それからたちまち、顔が曇り、能面のようになった。
冷たい、ゾッとするほど冷たい能面のような顔。
彼女は、私がまるでそこに存在しないかのように、通り過ぎた。
それは、あの最後の激怒した顔よりも、私には辛いことだった。
『信仰の切れ目が縁の切れ目』という言葉が心の中に響いた。
私は、もはや、彼女の信じる神を信じていない。
それどころか、あの時、自分が口にしていた全能の愛である神さえも信じていない。
そうであるなら、藤堂さんもまた、この光と同じように、私を透明人間のように無視するのだろうか?
そう思うと、胸の痛みはさらに強く激しくなった。
後ろを振り返って、光にもう一度、呼びかけて、神の名のもとに赦しを乞いたい気持ちに駆られた。
けれども、そこにはもう、私には何の救いもないことが明らかだった。
私は、それらのことを後にして、進んで行かなければならない。
そう思った時、いつの間にか、時間の川の流れが逆向きに、私の歩む方向に流れているような、そんな感覚に襲われた。