無意識さんとともに

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AとBとC 第二十九回〜心に聞く2

C1

 

それからも、心に聞いては邪魔を排除することを毎日繰り返していた。

変化は些細なことから表れてきた。

以前は、物を買うことも母の目を意識していた。実際、母は私の買ったものをチェックして、ああだこうだとダメ出しをする。

だから、買おうとする時に、本当に自分が欲しいものや必要なものを買うことを恐れて、欲しくないものやいらないものを買ってしまう。しかも、それらが見つからないように、母が留守の時を見計らって購入し、押し入れの隅に隠すという有様だった。

ところが、そういうことがいらなくなった。自分の欲しいものや必要なものを気にせず堂々と買えるようになった。

ある日も、私は神田の古本屋でヒルシュベルガーの「西洋哲学史」全巻揃えを買ってきた。以前ならば大きなカバンに隠して持ち帰ったものだ。

母はめざとくもその4巻本を見つけた。

「また、同じような本を買って。部屋の床が本の重みで抜けるじゃないか」

「そう」

「無駄遣いばかりして、わかってるの?」

いつもは、もうここでその買い物が自分にどんなに必要なものか言い返す。すると、母はなおも矢を放ってきて、私は怒ってしまったものだ。

私は、聞いているのか聞いていないのか、返事もせずに部屋に入った。少しの間、心の中にぐるぐると何かが回っていたが、心に聞いて邪魔を排除すると、嘘のようにさっぱりした。

 

また、相変わらず、朝起きると、朝食はなかった。朝食はないばかりか、いつも母は起きても来なかった。それが当たり前の日常だったが、私はいつも怒りが疼いて朝から嫌な気持ちになったものだ。

それが、朝目覚めると、すぐ心に邪魔を排除してもらって、シャワーを浴びたようにリフレッシュして、いつものように誰もいない、何もないキッチンを見ても何も感じないようになっていた。特に抑えているわけでもない。私は当然のように、自分で食パンと目玉焼きと牛乳だけの朝食をとり、授業に出かけるようになった。