無意識さんとともに

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小説 聖人A

聖人A 14 転落

僕は、皆の前で罪を告白した。 『勇気ある立派な行いだよ』とか『主があなたを赦してくださったのだから、あなたを責めることができるものは誰もいないよ』とか言ってくれたが、 それから、皆が僕を見る目は明らかに変わった。 それまで、僕は、牧師・伝道者…

聖人A 13 公開処刑

礼拝の時だった。 牧師の説教が終わると、たっちゃんは立ち上がって預言を始める。 公民館のそれほど大きくない部屋でパイプ椅子に座っている僕らをぐるっと見回す。 「神は侮られるようなお方ではありません。神はあなた方の思いをすみずみまで知っておられ…

聖人A 12 二重の混乱

僕たちの教会は、福音派の〇〇神学校の開拓協会として建てられた。そして、初代牧師は、現在、◯◯神学校の校長である。 だから、『しるしや不思議は使徒たちの時代に終わった』という教理から逸脱した教会の現状を許すことなどあり得なかった。 教会を出てい…

聖人A 11 洗礼

それからは、ぼくたちの教会はまるで変わってしまった、何もかも。 たっちゃんは、朝の祈り会をそれからも続けた。 けれど、違うのは、元々、来ていた日曜学校の小学6年生に加えて、大人が大挙して来るようになった。 たっちゃんはいよいよ、何か触れること…

聖人A 10 狂宴

たっちゃんが『COME HOLY SPIRIT!(聖霊よ、来てください)』と叫んだ後、一瞬の静けさがあった。その静けさの後、会堂内はどよめきが起こった。 泣き叫ぶ者、体を震わしている者、異言(通常の人間の言葉とは違う天使が語るとされる言葉)を語るもの、中に…

聖人A 9 預言者誕生

たっちゃんは僕の心を読めるんだ。 僕は恐ろしくなって、震えた。 けれど、頭の片隅では、『あんなにぼうっとした、暗唱聖句さえひとつも覚えられない、頭の悪い子がどうなってんだ』という気持ちがまだあった。 「優…」 たっちゃんに名前で、しかも下の名前…

聖人A 8 現象

たっちゃんは、朝6時に教会に来てお祈り会を開くようになった。 来るのは、僕を含めて子供は4、5人に、ふだん、『リバイバル』と口癖にしている大人がふたりに牧師。 もっとも、大人は見守るようにして、口は出さないつもりらしかった。神様がどんなこと…

聖人A 7 始まり

小学6年生だったと思う。 教会学校の小6のクラスで、僕たちは教会堂の2階の畳の部屋に集まっていた。 来ているのは、6、7人。 ほとんどクリスチャンホームの子ばかりで、少しだけ一般の家の子も混ざっていた。 田中先生という男子大学生と吉田先生とい…

聖人A 6 喪失

僕がそんなふうになる前は、まだ、神様というものを感じていた。 特に、幼い頃は、神様というのはもうひとりの僕のような存在で、ご飯を食べる時は一緒にご飯を食べ、眠る時は一緒に眠り、遊ぶ時は一緒に遊んでくれる、そんな存在だった。 だから、幼い僕の…

聖人A 5 ファリサイ人

その有名な伝道者は、僕を前に招いて、頭に手を置いて祈ってくれた。 「主よ、この子はまだ子どもなのに、我と我が身をあなたにお捧げする決心をいたしました。どうぞ、その貴重な決心を受け入れ、あなたの恵みを降り注ぎ、この子をあなたの御言葉を伝える伝…

聖人A 4 献身

僕は自ら、牧師か伝道者になろうと思った。 それから、しばらくして、教会に有名な伝道者がやってきた。 日曜日の午後に、伝道会(教会に来たことのない人を招いて、回心者を募る会)をすると言う。 さすがに、妹は家に帰り、祖母がその間、面倒をみることに…

聖人A 3 夢?

牧師先生は、アメリカ留学中にクリスチャンになったという人で、黒縁眼鏡にやせぎすでいつも黒のスーツを着ていた。ただ肩幅は広かった。何でも、柔道をやっていたらしい。 牧師先生が激したことはほとんど見たことがない。 奥様は何でも大学でピアノを教え…

聖人A 2 祈祷会

もう、赤ちゃんの頃から、教会には週に2回は通っていた。 水曜日に祈祷会(お祈りのための集まり)があり、日曜日には、礼拝の前に子供のための日曜学校があり、その後、礼拝がある。 祈祷会は、ほぼ大人しかいないのだが、母は僕と妹を連れて行った。 大人…

聖人A 1 クリスチャンホーム

地獄への道は善意で舗装されている 1 僕は、プロテスタントキリスト教の家庭に生まれた。いわゆるクリスチャンホームというやつだ。今、流行りの宗教2世というわけである。 もっとも、僕の信じているのは、正統派中の正統派を自認する福音派と呼ばれるプロ…