無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

AとBとC 第六回〜Y教授

A1

 

かくして、HとSと Mと私は、学生会館の一室でプラトンアカデミアと名乗る会をぶち上げて、プラトン研究と称して、プラトンの「饗宴」をつまみに議論したり、UNOをしたり、雑談をしたりしていた。

 

哲学科は2クラスあり、1組はドイツ語選択であり、2組はメインがフランス語+他の言語選択で、ドイツ語選択したものはドイツ哲学を専攻し、フランス語選択したものはフランス哲学を専攻するという具合だった。

 

Hは1組、残りの者はいずれもフランス語専攻で2組だった。そしてそれぞれのクラスには、担任がいた。1組の担任は、Y先生であり、幅広くドイツ哲学を研究しておられ、教養家庭でも教えておられた。

 

一度、4人で先生のお宅を訪問したことがある。都心にあるごく普通のマンションだったが、書斎に入ると、ほぼ壁の三面が天井に届きそうな書棚で埋め尽くされ、棚に整然と並べられた英独仏その他の哲学書に圧倒された。その記憶が凄まじすぎて何を話したかはとんと覚えていない。

 

哲学科の学生と同じく、哲学科の教授もまた変人揃いだったが、その中ではY教授は穏やかで誠実そうな雰囲気だった。

 

ある日のこと、Mと私は、大学の生協の棚にあるパンを物色していた。本を買うのにほとんどのお金を使ってしまう私たちは、学食の安いランチで済ますか、パンを買って済ますのが常だった。

 

パンを手持ちのお金を考えつつ一心不乱に眺めていると、いきなり、脇に異様な感覚を感じた。思わず、わっと声を上げてしまいそうになった。

 

咄嗟に後ろを振り返ると、いたずらそうな微笑みを浮かべたY先生がいた。

 

そのY先生が教授の中では最も常識人なのだから、あとは押して知るべしだろう。