僕は、福岡君にキリストの愛を伝えなければならないと思った。
福岡君自身は、僕がクリスチャンであろうと、それを気にしているような態度はまったく見せなかった。
もちろん、キリスト教に関心を持っているようにもまったく見えなかったが。
ある日も、彼はふらっと僕の部屋を訪ねてきた。
畳敷きの部屋、時折、壁の隙間から風が吹き込んでくるそんな部屋で、彼はいつものようにオカルト話を始める。
『何でぼくがクリスチャンであるのを知っているのに(教会ではオカルトや超能力は悪魔から来ているものと教えられている)、あえて僕が嫌がるようなオカルトの話ばかりするのだろうか?』
そんなことがちらっと頭をよぎる。
不思議なことに、その瞬間、僕の心臓から圧倒的な量の憐れみが放出されたような気がした。
僕の憐れみではなく、僕と共に、僕の中におられるイエスの福岡君に対する圧倒的な憐れみ、僕はその憐れみで、心も体も燃え盛っている。
『これ以上、この愛の炎を抑えておくことはできない』、そんなふうに僕は感じた。
「福岡君、神は君がオカルトに手を染めて自分の魂を汚していることに涙を流しておられる」
「何だって?」
福岡君は目を剥いて僕を見た。
「君のために、君になって十字架にかかってくださったイエスは君のことを本当に心配しておられるんだ」
「ごめん、僕はキリスト教には興味がない」
「そんなことはわかってる、でも、一度、教会に来てくれないか?」
「…」
「教会に1ヶ月来て、君がそれでもイエスを信じることができないなら、その時は僕も君と一緒にキリスト教をやめるよ、これは僕の、そして、イエスの君に対する愛なんだ」
福岡君の顔色がさっと変わった。
「君は何を言っているんだ?僕が何を信じようと、信じまいと、僕の決めることだ」
「わかってる、でも、でも、でも、僕たちの友情のためにそうしてくれはしないだろうか?」
福岡君はしばらく黙っていた。それから、おもむろに口を開いた。
「君が何を信じようと、僕は構わない。でも、君は僕が何を信じるか、それが大きな問題というわけだね。それなら、それなら、もう友達でいるわけにはいかない」
「お願いだから、お願いだから、神は君を救うために限りなく身を低くされたんだ」
僕はいつの間にか、彼の前で土下座をせんばかりだった。
「やめろ、ふざけるな。もう、我慢できないよ」
彼は逃げるようにして僕の部屋から出て行った。
よろよろと玄関まで見送る僕に、振り向きざまに呟いた。
「狂信」
そして、バタンとドアを閉めて僕たちの関係を終わらせた。
『狂信』という言葉は楔のように、僕の心に打ち込まれた気がしてならなかった。