無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 95〜H19 秘密

「ああ、あれね、授業がつまらなすぎたから」

福井君は、授業中、ああいうふうに関係のない本読んだり、寝ていることもある。それなのに、成績はトップクラスで正直、うらやましい。

「ところで、何の本、読んでたの?」

「それ聞く?」

「聞いているんだから教えてよ」

「それなら、教えてあげようかなあ。隣の席に座っているよしみで」

福井君は、たいそう勿体ぶって言う。

「えーと、狐狸庵先生のぐうたらシリーズ」

「何それ?」

あまりにふざけている名前なので、思わず笑ってしまう。

「えっ、狐狸庵先生、知らないの?」

「誰それ?」

「ほら、ダバダーってインスタントコーヒーのCMに出てる人」

私は、黒メガネをかけていて、額がだいぶ後退したおじさんが思い浮かんだ。

「あの人って、そんな名前だっけ?」

「もちろん、作家名じゃないよ、作家名は遠藤周作

「ああ、遠藤周作聞いたことあるわ」

「ぐうたらシリーズ、面白くて、おかしくて。読んでると、どうしても笑っちゃって、家の人が不審がるから、布団に潜って懐中電灯で照らして読んでるんだけど、それでも笑いがこらえられなくて…」

「そんなに面白いの?」

「ヘタなお笑いよりずっと面白いよ」

「それで、わざわざ国語の時間中に読んでたわけね」

「そうそう、つまらない授業を少しでも有効に使おうと思ってね」

なんて人だと思いながらも、福井君に何だか興味が惹かれる。でもうえっちのことがちょっと頭をよぎる。

「今度、貸してよ」

「いいよ、明日持ってくるよ」

わたしはもう少し話していたいと思った。それで話を広げようとした。

「ところで、遠藤周作って、他に小説は書いてないの?ぐうたらシリーズだけ?」

「うん、書いてることは書いてる」

なんか、福井君の声が心なしか、小さくなってトーンダウンしたような気がした。

「どういうこと?」

カトリック作家と言われていて、『沈黙』とか暗〜い小説も書いているんだ」

カトリック?」

カトリックだよ、キリスト教カトリック教会のカトリック。知らない?」

「知ってるわ、隠れキリシタンカトリックね」

「まあ、厳密に言うと違うんだけれど、そんなものかな」

福井君は、ますます真面目な顔になった。

「それで、福井君はその暗〜い小説も全部読んだの?」

「読んだよ、一応。家に全部あるからね」

「そうなんだ、すごいね」

「すごいというか何というか…家がカトリックだから」

最後は本当に蚊の鳴くような声で言った。

カトリック!じゃあ、お祈りとかするんだ」

「まあね」

福井君は苦虫を噛み潰したような顔をした。わたしは何かいけないことを聞いてしまったのかもしれない。

「そろそろ、戻ろう」

福井君はぼそっと言った。