無意識さんとともに

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聖人A 21 テープ

僕は、ショックで、教会はもとより学校にも行けなくなった。

ほとんど部屋に引きこもって、布団の中に潜り込んでいた。

自分は神に呪われている、そういう感じが否定しても否定しても、湧き上がってきてしまう、たっちゃんの冷笑した顔と共に。

母は、最初、そんな僕を放置していたが、さすがに心配になったらしい。

今、通っている教会の人たちに相談したのだ。

そして、ある日曜日の午後、紺色の巨大なボストンバッグを抱えて教会から戻ってきた。

カーテンも閉め切って、ただ1日が過ぎてくれることだけを願っている僕のところに、ボストンバッグを引きずるように持ってきた。

「これ、優のためにって、教会の人が持たせてくれたの」

「いらないよ」

「そんなこと言わずに」

「だいたい、こんな馬鹿でかいもの邪魔になるだけだよ、いったい何が入っているんだよ」

母は、僕の枕元に置いたボストンバッグをジーと音をさせて開ける。

中からは旧式のテープレコーダーと、山のようなカセットテープ、100巻ぐらいはある。

「長老の小嶋さんが持たせてくれたのよ、これ聞けば元気になるって」

キリスト教の説教のテープじゃないか、こっちは神がこわくてどうしようもないのに、何考えてんだ、ふざけるな。

「やめてくれ」

僕は、テープの1巻を投げつけた。

母は投げつけて、ドアに当たったテープを大事そうに拾う。

「何でもね、教会の創立者の神谷先生のメッセージが入っているということよ。神谷先生は愛の人で、ヤクザの人でさえ、先生の愛に打たれて回心したらしいわ」

胡散臭いと思った。

「とにかく、余計、具合が悪くなるから、そんなもの近くに置かないでくれ」

「わかったわ、台所に置いておくから気が向いたら聞いてね」

そんなものに気が向くなどあり得ない。

けれど、毎日、毎日、することがない。読むものもなければ、見るものもない。

それで、ある日の昼間、母の作り置きの昼食を食べた後、恐る恐るボストンバッグを開き、テーブルの上にテープレコーダーを取り出した。

僕は何をするというのだろう?

それから、カセットテープのタイトルを次から次へと眺めて、一巻のテープを取り出した。

タイトルは「神という徹底的な愛」。

こんなことをしてどうにかなるものかという思いが襲ってきたが、それでも僕はカセットテープをテープレコーダーにセットし、再生ボタンを押してしまった。

かなり古い時代のテープらしく、音がぼやけている。

フォークソング調の賛美歌を皆が歌っている。何だかとても楽しそうだ。

そして、神谷先生のメッセージが始まった。