それから、ぼくは何だか、クラスでうまくやっていけなくなった。もちろん、表面上はうまくやっているように見えている、何も変わることはない。けれど、向こうとこちらに、薄い透明な壁があるようで、向こうの言いたいことがほんとのところよくわからないし、ぼくの言いたいこともうまく伝わらない。
特に、男子の友達とはだんだん疎遠になっていった。
彼らの発する独特な香気が耐えられない、ありていに言えば、思春期の男子が発するホルモンということなのだろうが、おそらく自分もそういうものを発しているにも関わらず、嫌悪の情が止まらない。何だか、発情期の猿かゴリラにしか見えない。
もっとも、自分もそういう猿かゴリラの一匹なのだから、自分に対する嫌悪感もどんどんと募っていく。
反対に、女子に対する憧れと理想化は勢いを増していく。
ぼくは、男子の友達との付き合いを極力少なくして、女性の園である文芸部に引きこもった。ぼくの中学では、給食ではなく、弁当だったが、その弁当さえも部室で食べていた。そして、放課後は、もちろんそこで何かしら書いたり、読んだりしていた。
その頃、書いていたのは、はまっちについての詩だった。はまっちとは、あれ以来、会っていないのに、ぼくの中のはまっちは理想化され、純粋化され、まるで水晶でできた像のようなものになっていった。
部室にいるのは、いつもいつも、部長とふたりの女子だけだ。
ある日、ぼくが、例によって、はまっちについての詩を、祖父からもらったモンブランの万年筆で書きつけていると、書き終わった原稿用紙の一枚が不意に窓から入ってきた風に煽られ、何やらつぶやきながら歩き回っていた部長の足元にふわりと落ちた。
部長は左手で前髪を押さえ、かがんで、右手でロイヤルブルーのインクで書かれた文字が散りばめられた原稿を拾い、つかつかとぼくのところにやってきた。
「風が強いから、窓は閉めた方が良さそうだね」
ふたりの女子のひとり、岡本さんがそそくさと立ち上がって窓を閉める。
「ありがとう」
「ところで、失敬、上地君。君の万年筆のインクの色があまりに綺麗なものだから、拾い上げた時に、原稿を読んでしまった」
ぼくは赤面してうなずく。
「かまいません、大したものではないので」
「しかし、これを読むと…」
「読むと…何でしょうか?」
ぼくは顔に緊張が走るのを感じる。
「君は、また、えらく女性を理想化しているものだね」
神楽坂部長は、笑ったが、ぼくにはその笑いが何だかほんのりと温かいものに思えてならなかった。