無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復

黎明〜鬱からの回復 43 兆し

次の日曜日、田中君と成島君は、姿を見せなかった。 仕方なく、私はいつものカラオケの部屋で藤堂さんと二人きりで礼拝をしたが、なんとなくバツが悪かった。 終わってから、田中君の携帯にかけた。午前中にかけた時は繋がらなかったが、今度は一回のコール…

黎明〜鬱からの回復 42 ファミレスで

礼拝が終わると、いつもは4人でファミレスでランチを食べてから帰るというのがいつものことだったが、その日は違った。 「僕たちはちょっと用事がありますから」、田中君と成島君は、カラオケの受付で支払いを済ませるとそう言う。 「そうか、じゃあ、また…

黎明〜鬱からの回復 41 渾身のメッセージ?

「アバ父よ(アバとはイエスが話したアラム語で『お父ちゃん』という意味)、今日、ここに集まった私たちに、あなたが全能の愛であることを示してください。愛するイエス・キリストのお名前によって、アーメン」 祈り終えると、田中君と成島君の顔に、?が浮…

黎明〜鬱からの回復 40 全能の愛?

二重人格の神を、私は信じることができなくなってしまった。 もし、神がいるなら、愛そのものでなければならないのではないだろうか? 「神は愛である、愛のあるのものは神を知っており、愛のないものは神を知らない」と言われているのではないだろうか? 神…

黎明〜鬱からの回復 39 疑念

それから、私は彼らと、毎週、カラオケで礼拝することになった。 メッセージは持ち回りのはずだったが、いつの間にか、一番年上の私がすることになっていった。 教会学校で、小学生や中学生を前にしてお話ししたことはあるが、少人数とは言え、大人の前で話…

黎明〜鬱からの回復 38 出会い

とある郊外の駅で待ち合わせをした。 何でも郊外の駅の方が、カラオケ店の料金も安く、空いていて、礼拝するには都合がいいということだった。 改札を出て、エレベーターを使って地上に出る。 わざわざ、エレベーターを使ったのは、ちょっと眩暈がしたからだ…

黎明〜鬱からの回復 37 放浪

その後、私には行く教会もなくなった。 一度、福音派の教会の礼拝に出るには出たが、礼拝後、牧師に、「クリスチャンですか?」と尋ねられ、「はい」と答えると、どこの教会出身かをさらに訊かれて答えると、「ここはあなたのような人が来るところではない」…

黎明〜鬱からの回復 36 同級生?

私は、今までのことをすべて、包み隠さず話した。 母教会でのこと、光のこと、牧師と光の対立、そして牧師にスパイをさせられたこと、鬱の発症…と。 ヨシコ先生はただ黙って頷いているだけだったが、まるで砂地に水が吸い込まれていくように、私の言葉はどん…

黎明〜鬱からの回復 35 紅茶

額に誰かの手が置かれているのを感じた。 その手がとても温かくて、痛みに引き裂かれた心と体が少し落ち着いてくるような気がする。 そのまま、目を閉じていたかったが、思い切ってゆっくりと目を開けた。 目を開けると、左側に、ヨシコ先生が床にそのままひ…

黎明〜鬱からの回復 34 2回目の発作

「えっと、智昭さん。教会員ではないですが…そうですね…教会員ではない人の意見も聞くといいかも知れませんね」 私は人をファーストネームで呼ぶのには慣れていないが、高木さんは私をそう呼んだ。 私はおずおずと立ち上がった。 「知り合いが(光のことだ)…

黎明〜鬱からの回復 33 総会⑶

「そうして、主管(神戸のその教会ではトップをそう呼ぶ)に直接、ルツに手を置いて祈っていただきました。 完治したわけではありませんが、その後、明らかに、娘のルツの病状は好転しています。 主管には、続けて祈りを受けることと、神の奇跡を信じる信仰…

黎明〜鬱からの回復 32 総会⑵

普通のプロテスタント福音派や聖霊派の教会は、十分の一献金のところが多い。十分の一とは全収入の十分の一ということだ、他にクリスマス献金やイースター献金などの特別献金もある。そんな献金や日曜学校での奉仕も含めれば、負担はかなりのものだ。若い人…

黎明〜鬱からの回復 31 総会⑴

礼拝の終わりに司会が言う。 「今日は、2時から総会があるので、教会でのランチの提供はありません。各自、外に買いに行ってください」 と言っても、ほとんどの人はわかっていたようで、お弁当を持ってきたり、朝来る時にコンビニで買ってきたりしていた。私…

黎明〜鬱からの回復 30 間違い探し

日曜日がやって来た。 竜宮城のような格好をした駅から降りると、光が眩しく目に飛び込んでくる。 一緒に降り立った家族連れは、幼い子供を真ん中に手をつないでいている。聞こうとしなくても聞こえてくる「イルカさん」という言葉からすると、たぶん、水族…

黎明〜鬱からの回復 29 トンネルの向こう

それから、ずっと日曜日が来るまで、私は部屋の外に行くことができなかった。ただ、閉じこもって、電気をつけることもしなかった。 闇の中で蠢く虫のように、光が怖かった。 もし、外に出たら、誰にも彼にも「裏切り者」と言われるような気がしてならなかっ…

黎明〜鬱からの回復 28 メール

私は、それから数回続けて、オアシスクリチャンフェローシップに通った。 教会のドアを開けて中に入り、そこにいる人たちの微笑みに迎えられると、脱力して本当にホッとする感じだった。 そのせいなのかどうなのか、あれほど割れるような痛みも幾分、おさま…

黎明〜鬱からの回復 27 オアシス?

発作がおさまって、目を開けてみると、皆が私の顔を覗き込んでいて、なんだかすごくバツが悪かった。 「大丈夫?しばらく動かないでじっとしていたほうがいいわ」 私に紙袋を渡してくれた小柄な女性がそう言った。 「ヨシコ先生、食事の準備をしてもいいです…

黎明〜鬱からの回復 26 発作

最初は有給を消化していって、その次に、私は休職することになった。 「どこか、他の教会に行ってみたらいいんじゃない?礼拝に出ないと力が出ないよ」 そんなふうに、電話で光は呑気なことを言う。 だから、安全そうな他の教会を探し、日曜日に、鉛のように…

黎明〜鬱からの回復 25 発症

光は三重に帰っていった。 私は帰るべきところを失った気がしてならなかった。もちろん、自分の親のいる家はあったけれど、そこは私のホームではなかった。 もちろん、あんなことを言われて教会にのうのうと行くことはできなかった。 けれど、それだけではな…

黎明〜鬱からの回復 24 塩の柱になる前に

私と光は、まるで原爆投下後の地を彷徨う幽霊のようだった。 『長崎のあの大浦天主堂でミサをあげていた信者の上に、原爆が炸裂した時、そこにいた信者たち、男も女も幼いものたちも、その一瞬のことに『神様』と呼ぶことができたのだろうか?』 私は、荷物…

黎明〜鬱からの回復 23 炸裂

「入りなさい」 冷たい声が鳴り響いて、私はドアを開けた。 中には、テーブルとソファがあって、牧師が正面に座っていた。 信徒用の相部屋とは随分と違う。 「座りなさい」 私たちはソファに並んで座った。 ソファに座ると、光がいきなり口火を切った。 「私…

黎明〜鬱からの回復 22 拷問

私はあの黴臭い牧師室にまた呼ばれた。 私から報告を聞くためだった。 「何か、彼らは話していたかね」 私は肝心なこと、つまり、岡田姉妹からの提案を除いて、どうでもいいことだけ正直に話した。話しながらも、牧師に心が読み取られるのではないかと胃がキ…

黎明〜鬱からの回復 21 提案

窓際の席から通りの方を見ると、もう日が暮れかかっているせいだろうか、人通りも少ない。わずかにいる人たちも足早に家路を急いでいるようだ。 「私は、もう限界だと思うんです」 岡田姉妹の声で私は視線をあわてて戻した。 「どういうこと?」 種崎兄弟が…

黎明〜鬱からの回復 20 スパイ活動?

それから、私は、教会でまた帰りにお茶をしている時に、特に年輩のいった人たちの話していることを牧師に伝えた。 伝えながら、私は額から冷や汗が滴り落ちるのを止められなかった。 たぶん、私の顔も苦痛に歪んでいることだろう。 そんな私の顔を見ると、牧…

黎明〜鬱からの回復 19 提案

「はい」 私は力なく返事をした。わざわざ聞かないでも何のことを言っているかは明白だ。 「神に油塗られたものに逆らうものは呪われると聖書で言われていると知っていますよね」 牧師の青白い顔がますます青白く見えた。気のせいか、口元に先ほどとは違う笑…

黎明〜鬱からの回復 18 呼び出し

翌週、教会に行くと、みんなの私を見る目はいつもと変わらなかったが、牧師は冷ややかだった。 礼拝が終わると、牧師はつかつかと私のところにやってきた。 「神崎兄弟、ちょっと話があるから後で牧師室へ」 牧師は小声でそう言ったが、周りの人は耳をそば立…

黎明〜鬱からの回復 17 発作

(これはフィクションです。登場する人物、場所、団体など架空のものです) それからの光は何だか、今までとは違うようだった。違うようというのは、最初は私の前で、そしてしばらくすると今度は人の前で、感情が抑えられなくなるようだった。火にかけられて…

黎明〜鬱からの回復 16 茶番

岡田姉妹は、光と私の横に腰を下ろすと、光の肩に置いて、話を続けた。「お分かりのとおり、教会の大部分の人は、一部の若い人を除き、牧師先生の今のやり方に不満を抱いているのです。ですから、光さんがああいうふうに言ってくださって、私以外の多くの人…

黎明〜鬱からの回復 15 決壊

光は全速力で駅の方に向かって走っていたが、右手に公園があるのを見つけるとそこへ入っていった。 私も、冷や汗をかいたうえに、今度はあつい汗をかきながら、光の後を追って公園に入った。 お昼時だからか、子供も大人もいない。 がらんとした公園のブラン…

黎明〜鬱からの回復 14 対決

黒スーツで黒メガネの牧師は説教を始めた。 「今日の聖書の箇所で、主イエスの兄弟やコブは言っています。 『主に義とされる(正しいものと認められる)のは、信仰だけではなく行ないにもよるのだ』と。 この教会は、先先代の牧師によって、信仰による義を重…